陽海青春鉄道

陽海_019

ドン

あぁ…よりによって西のご自慢500系を血まみれにしてくれましたか….

 

うんうん大丈夫!!大丈夫…

といつものポーカーフェイスでその場を車掌に任せて

おれは新大阪の宿舎でシャワーを浴びていた.

なんで人間って死にたがるんだろう…放っておいてもいずれ死は訪れるだろうに

おれが篠山と呼ばれていた頃は…うーんその頃もあったわ.

今日飛び込んだあの人には家族はいるのか

いたなら何故助けてあげられなかったのか

相談にのってくれる人すらいなかったのか

こんな死にかたしたって遺族に高額な賠償金支払いがいくだけで

救われるどころかさらなるどん底だというのに…

あぁおれの500系…

 

バンッ

 

その時勢いよく風呂場の扉が開けられ怒りに満ちたオーラをまとった

あいつが仁王立ちしていた.

「東海道…」

この時おれは真っ裸でいつもの山陽さんなら

「イヤーン東海道ちゃんのスケベー!!

それとも…こんな時間から体が疼いて待ちきれなかったのかな??ニヨニヨ」

とか言うつもりだったが…次に繋がる言葉が見付からなかった.

「あの…わりぃ…おれ」

脳ミソフル回転させて出た言葉を遮って東海道は

おれの後頭部に手を回しグイッと東海道に抱き締められる感じに

頭を抱き抱えられた優しく語りかけてきた

 

「山陽…貴様は悪くない.いくら人間のコトを考えたところで答えは出るものではない.

私たちも確かに人間だが今日飛び込んだ”人間”とは似ているようで違う生き物だ

引きつられるな.飲み込まれるな.”人間”と我々を混同するな」

「東海道…」

「同じ人間ではあるが根本的に違う生き物だ.考えても出ない答えを探す必要はない」

「…うん…ありがとう」

「では私は復旧に戻る」

そう言い浴室から出て行く東海道の背中をぼんやり眺めていたら急に振り向いて

 

「あと…遅延は1時間59分までだ.それ以上は…分かっているな??」

「あーもう分かってるよー迅速に復旧活動させていただきます.

九州の方にも響くとさすがの山陽さんも身が持たないからね」

「ふんっならいい」

そういい今度こそ本当に出て行こうとする東海道に

「愛してるよ」

なんて投げかけてやったら

 

「知っている」

 

なんてセリフが返ってくるんだもん.

ほんと…東海道には敵わない.

本当は湯船にも浸かってそのまま寝てしまいたいところだけれど

愛する人を悲しませない為にもうひと踏ん張り頑張りますよ.っと.

浴室から出てふっと居間の机に目が止まった.

500mlのミネラルウォーター.

自分で買った記憶はない…っということは東海道が??

あーもう…こんならしくないコトされちゃうと山陽さんはまた東海道に恋しちゃうじゃない

本当に…人ってのはどこまで人を愛せるのかな??

おれはもうずっと最高に東海道のこと好きだけど…

まだ頂上に着いていないのかな.

さっきまで考えてたことが全部吹き飛んで頭の中東海道のことしか考えられない.

あぁやっぱりあいつには敵わない…まぁ勝つつもりもないけれど….

お土産のミネラルウォーターを一気に飲み干して,襟元を正し,

綺麗にアイロンがかかった白い手袋を手に取り自分の部屋をあとにする.

愛しいあの人の隣をずっと走り続けられるよう…

これ以上悲しませないよう…ただそれだけを考えて部屋の扉を閉めた